第9号 1997年1月15日


主な内容
日本の玄関としての総持寺
大本山総持寺監院 江川辰三

 ご承知の如く総持寺は能登の門前町より移転して八十六年を経ております。その移転の目的は、新しい時代の流れの中での仏法興隆と、より多くの人々への布教を目指すものでありました。この先人たちの意思は見事に実現し、現在の本山の隆昌を見るに至っています。

 それは、本山の優れた立地条件にもよりますが、病院、学校等の設立も、横浜市民の文化的環境に寄与し、市民の皆様に喜ばれていることは周知の如くであります。

 このように首都圏に位置する大本山総持寺は、外国からの観光客も多く、都会の中にあるオアシス的禅寺の雰囲気を味わって戴いておりますが、参禅希望の外国人も年々増えています。

 すなわち日本の玄関として、総持寺は自覚をもって活動して参りましたが、諸外国との交流及び曹洞禅の海外布教にも積極的に取り細んでおります。成田芳髓新禅師 様は、海外開教の御経歴がおありでして、海外事情には多大の関心を寄せておられ、特に海外で曹洞禅の挙揚に尽力されている方々には敬意と感謝の念厚くいらっしゃいます。

 先般もご晋山式の前日にもかかわらずドイツで禅センターの堂長として活躍している天竜テンプロウ夫妻に快く相見され、一時間も歓談されるという一幕もありました。

 小衲も欧米の禅道場のみでなく、アジアの仏教諸国との交流、友好の大切さを実感しており、昨年八月には、愛知県仏教会の岩田会長と共に中国を訪れ、日本人として三蔵の称号を受けた霊仙三歳の所緑の地、五台山霊境寺に墓塔を建立し、日中合同法要の導師を勤めさせていただきました。微力ながら、佛法興隆と日中友好に協力できましたことは、有り難き報恩行と感謝しております。

 このような国際交流の益々盛んな時期にSOTO禅インターナショナルの活動には発足当時より注目して参りました。今後も宗務庁、両大本山とも連携をとりながら益々活躍されんことを切に祈念致しております。


ハワイ・マウイ満徳寺創立90周年記念法要 仏教国国際親善ハワイのたびレポート
愛知県・地蔵寺副住職 浅井宣亮

禅を聞く会、シンポジウム

 1996年11月15日から21日にかけて、SOTO禅インターナショナルにとって、初の海外研修旅行とな「マウイ満徳寺創立九〇周年記念法要 仏教国際親善ハワイの旅」が開催された。

 十六日には,マウイ・パームス・ホテルにおいて、「禅を聞く会」と「文化と宗教」に関するシンボジウム。十七日には「満徳寺九十周年記念法要式典」。その後、ホノルルに移動し、十八日、ハワイ別院に拝登した。 150名余の出席者を集め た中、午後四時より開会式が行われ、現地の方の歓迎の後、日本側を代表して大竹明彦宗務総長が挨拶を行った。大竹総長は、「一般に禅は難しいと考えられている場合が多い。 しかし、これからは積極的に禅の理解を広めていく必要がある。

 この“ 禅を聞く会”がハワイにおいて開催されることは、非常に有意義なことである。」と感想を述べられた。

 そしてペンシルバニア在住の開教師べナージュ大円師により、「禅について」と題する講演と、坐禅指導が行われた。 要約は以下の通り。

 「100年ほど前に、禅は釈宗演老師によりアメリカに紹介されました。しかし当時、禅は哲学として受け取られていました。戦後になると、カプロー氏により修行としての禅が始められるようになります。          

 曹洞禅はサンフランシスコの桑港寺の鈴木俊隆老師により、白人に広められました。 しかし、禅が白人のヒッピーの人気を集めるようになると、日系人の檀家との間に摩擦が生じるようになり、俊隆老師は桑港寺から独立してサンフランシスコ禅センターを創立することになりました。そして、このような2つの流れは、現在にもあてはまると思われます。

 ベトナム戦争の泥沼化は、アメリカの若者に大きな苦悩を生じさせました。彼らは、その苦悩からの解放を、坐禅などに求めました。これがアメリカにおいて禅が広まったルーツになっています。

 現在のアメリ力の状況はこれとは違い、皆、自由を重視し、自由を求めています。しかし、真なる自由は容易に手に入れることはできません。 あるベトナムの禅の先生は『不自由から自由は生まれる』と説いていましたが、これは真実だと思います。

 アメリカ人の多くは個人の自由を得るために坐禅を行っています。しかし、坐禅だけでは、宗教の半分にしか過ぎません。残りの半分は菩薩戒です。アメリカの参禅者は坐禅重視の傾向が強いが、もっと日常生活に深く人ったものとなることが必要でしょう。それは、菩薩の道を実践してしくことだと思います。

 そして、日本人・日系人の場合にはこの逆のことが言えるのではないでしょうか。

 現在わたしは、ベンシルバニアで、禅の指導を行っています。刑務所に服役中の人にも禅を教えています。初めて坐禅をする人にとって、四十五分の結跏趺坐は、非常に厳しいものです。

 そこで、最初は“ 椅子坐禅”を勧めています。また、刑務所では二〇分の坐禅も難しかったので、最初は限界と思った時間にもう一分プラスしただけ坐り、五分の経行をした後、二回目は一回目に坐った時間にもう一分加えた時間坐禅をします。 このようにして、坐禅の時間を少しずつ延ばしていきます。

 また、キリスト教では、聖書を引用して教えを説きますが、我々は観世音菩薩・地蔵菩薩などの言葉から多くを学ぶことができます。それらの言葉を聞くことだけでも、坐禅と何様に大変重要な修行であると考えています。

 坐禅は安楽の法門といわれます。楽に坐って、自分が仏であることに目覚めましょう。 一分の坐禅でも一切衆生のためになります。刑務所では、坐蒲の中身にパンヤは使用できません。その中に、麻薬などを隠すことができるからです。

 そのため、ビーチボールを代わりに使用しています。 ペンシルバニアでは、ジーンズの布であるデニムを使って坐蒲を作ったものもいます。皆さんも、手近にあるもので坐蒲を作って、坐禅を体験してみてください。

 近年、臨済宗・三宝教団などはアメリカで急速に広まっています。また、日本以外の禅も広まっています。私は、ベトナムの禅の指導者であるティク・ナット・ハン師の修行に三カ月参加したことがあります。その教えは非常にすばらしいものでした。しかし、私はその時、曹洞宗の教えのすばらしさも再確認できました。これからもこのすばらしい教えをみなさんと共に護持していきたいと思います。」

 次いで、松永然道SVA会長により「禅と文化について」という題材で講演が行われた。

 松永会長の講演は「禅は、不立文字であり、言葉で明確に定義できるものではない。悟りへの道であると言う人がいるかもしれないが、これは曹洞宗の宗祖である道元禅師により否定されている。

 現在日本人は、縄文人と弥生人のミックスであると考えられている。また、禅は中国から輸入されたものである。このような事からも、歴史的に見ても日本人は、他者を排除してきたのではなく、それを取りへれ、調和を図ってきたといえるだろう。

 現化、曹洞宗のボランティア活動として、大竹総長の提言によるグリーンプランが企画されています。これは、タイ・カンボジアの僧侶が行っているボランティアをサポートして、植林などを通じて、環境保護に貢献し、世界平和のための活動を進めていこうとするものです。

 しかし、世界平和ということを考えたとき、異なった宗教集団の間では、その理想が異なるため、争いが生じることさえあります。それらは平和のための戦い、宗教戦争などと呼ばれてきました。

 そうとはいえ、実際の行動を伴わない“ 祈り”だけでは意味がありません。世界の宗教者が一同に会して行われる“ 平和の祈り”といった活動は10年も前から行われていますが、実際の行動は伴っていません。

 自分たちの理想に基づいた都合のいい和平ではなく、また布教を期待するような活動ではないものが、現在求められています。仏教では他者を尊重します。『他をして自に同ぜしめて後に自をして他に同ぜしむる道理あるべし、』という道元禅師の言葉の通りの態度が必要です。そして、この姿勢は日本文化に歴史的にみられる“ 他者との調和”とも結び付いているといえるでしょう。」というものであった。

 この後、松永然道会長、福島県参拝団を代表し、金平祖隆宗務所長より日系人の多い現地老人ホームに対する寄付が手渡された。また、午前中に開催されたチャリティー・ゴルフからの収益金も飯田光照老師より同時に手渡された。
(次号につづく)


第二回ワークショップレポート
愛知県・長松院住職 篠田一法

 去る十月十六日・十七日の二日間にわたり「文化変容の 中で生きるお寺」−伝える手段としてのマルチメディアの 可能性と危険と題してワークショップが行われた。

 松永然道会長導師のもと、仏祖諷経が行なわれ、その後事務局によりテーマの説明がされた。全曹青パソコン通信研究部の大森篤史師、実際にホームページを開設している亀野哲也師、ならびに西山直彦師の両名、インターネットユーザー側代表として岡野定丸師をお迎えし、各々の立場から発表いただいた。
各師の発表の要旨は次の通り。

 【大森篤史師】
*全曹青の紹介のみで構成することは将釆的に内容がなくなると考え、本庁出版物の掲載を考えたが、版権、著作権などの問題で断念。今後なにをどう発信するか 再検討中である。
*行事の案内・寺院紹介など曹洞宗へのかかわりのきっかけとなる情報の提供がメインとなっている。
*全曹青のホームベージを曹洞宗運営のホームページと考えて電子メールを送られる方がいる。宗門の顔と見られているとするならば無責任な内容の公開はできない。
*発信と受信といった電子郵便的な利用でなく、現在徐々に改善されてきているが、掲示板などのような誰もが意見をどんどん読み書きできる場を作る必要を感じている。
*インターネット上での情報発信は対象を限定できないため発信する側のモラルが問われている。
*海外から日本の宗門の情報に気軽に接することができるため、海外の禅関係のホームベージをある程度目を通し、リンク集などを作れればと思う。
全国曹洞宗青年会のページ

 【亀野哲也師】
*1996年4月に開設し現在一日のアクセスは、20件ほどである。電子メールは概算で半年350通ぐらい。内訳は一般60% 寺院関係20%檀家10% 海外10%となっている。
問題点として
*ホームベージ作成者の主観による偏った情報となる恐れがあること
*簡単に他人の著作物を引用できるので著作権上の問題が生じる。
*インターネット上では一個人であろうが組織機関であろうが同一に取り扱われてしまう。
*海外からの訪問者にも大筋がつかめるように概略程度は英語力が要求されること
将来性として
*ブラウザとOSとの融合インターネット放送・会議システム・バーチャルスベースなどが現在可能であり、布教手段に多くの可能性を持っている。
ホームベージ作成の心得
*手作りを基本として可能な限り更新をすること
*住職・副住職の声が届くようにする。送られてきた疑問や質問感想には必ず返信すること。
*コンピューター上の仮想寺院で終始しないように現実のお寺とりンクさせていくこと。
貞昌院のホームページ

【西山直彦師】
*七月に開設して平均で一日十五件ほどのアクセスがあり、週末に多く時間帯は深夜に増加傾向である。慣習的行事(お盆など)の時期になると増加する。
*ホームベージに対する反響は、お寺がホームベージということで驚きの声が多いが、お寺・仏事・教えなどが勉強になったという感謝の声などもあり好意的な意見が多い。
*そのお寺の個人的な見解が、宗門の見解と取られる可能性がある。
*何回も見たくなるようなべージにすること。一般の人にも理解しやすい容易な言葉 で書くこと。
*面と向かって話することが苦手な現代人でも気軽に意見交換ができるため、お寺と一般の接点になることだと感じる。
善徳寺のホームページ

【岡野定丸師】
危険性についての将来的課題
*情報自体に責任を持たせることによって情報の一人歩きになる危険性を回避する必要がある。
*作成者などの知的所有権への配慮が現在まだ十分ではない。
*現在のコンピューター自体が大衆強化メディアとして適当なものであるのか。導入運用にも金額がかかりすぎること。
*日本社会での常識的宗教観は、海外でどう受け取られるかを考え、翻訳作業も海外で使える翻訳とするべきではないか。
*知らなくてもよいことを知らせ、知らせなくてはいけないことを知らせていないようなことはないか。
*情報が氾濫する山でその情報が正しい情報か間違った情報であるのかチェックする機関が必要ではないのか。 可能性
*不特定多数に地球規模で自分の意見を発表できることは布教にも可能性が見いだせる。
*自分の知りたい目的の情報にアクセスしやすく個々の情報交換がやりやすい。
*情報管理がしやすく訂正検索が容易である。
*他宗教他宗派を気軽にアクセスでき、海外に至っては有益な情報を容易に入れられる。

 この様な各師の意見が発表されたあと、今回コンピューターを持っていない人から使っている人、そして使いこなしている人といった人たちが集まる中、それぞれの人たちが多方面から意見を出した。
*ホームベージへの接続の仕方。
*曹洞宗の偽称を使った情報の危険性はないか。
*我々が伝えるべきことはなんなのか。
*導入までの金額と実際運用するにあたっての 金額は。
*アナログ回線とデジタル回線のこと。
*利用者を限定したホームベージは。
*とこまでその情報が信用できるのか。また、WWWブラウザ名の付け方は。
などの意見交換がされた。

 一日日は、この後、記念撮影をとり終了した。懇親会では、コンピューターの疑問・デジタルカメラの品質ならびに画像処理・出席者の日ごろの疑問を個々に話し合い楽しいひとときを過ごした。

 二日目は、最終的な意見交換を行い、SZIのオープン会議が行われ福島事務局長挨拶で閉会となった。


海外レポート
第10回世界宗教者会議平和の集い

東京都・長泰寺副住職(事務局) 大谷有為

 去る十月七日から十月十日までの四日間、イタリアの首 都ローマで「世界宗教者会議・平和の集い」が開催された。

この会議は、ヨハネ・パウロ二世の呼びかけにより、一九 八六年にイタリア中西部アッシジで第一回が開催されて以 来、毎年行われ、今回で早くも十回目を数える。

 イタリアに本部を置く聖エディジオ共同体の主催のもと、 仏教、カトリック、プロテスタントを始めとする各宗教団 体高位聖職者、関係者、また政治界からもイタリア大統領、 国連ユネスコ事務総長、EUヨーロッパ統一議会議長、N GO国際アムネスティー事務局長、その他多数の高官、と いった多くの参加者が集う。

 この会議は、世界各国から集まる宗教者による講演、座談会によって主に構成される。 それを盛大なオープニングセレモニーとファイナルセレモニーが囲む。

 初日のオーブニングセレモニーには、一般の参加者も含めて2000人以上もの人がローマ広場大会議場に参集した。  今大公のメインテーマは「宗教と平和』で ある。四日間の期間中、このメイン テーマに沿って、約二十の座談会が ローマ各地で催された。

 松永然道SOTO禅インター ナショナル会長は、大本山永 平寺の国際部部長として参加 され、『既成宗教と若者たち』 というサブテーマの座談会に おいて、若い人達の抱える現 代社会における不安、そして 増えつつある暴力、怒りをい かにして減少させていくかと いうことについてスピーチさ れた。

 また、第一回から毎年参加 されている群馬県長楽寺住職・ 峯岸正典師は、『一九八六年アッシジから一九九六年ローマへ 『崩れ落ちた壁と世紀末の間 で』というテーマで、人と人 との出会い、人類と宗教の出 会いの必要性についてスピー チされた。

 最終日には、各宗教に分か れて平和の祈りの法要が行わ れ、ファイナルセレモニーで は各宗派の代表者によって大 きな二本のろうそくに火が灯 され、サンタ・マリア広場に 集まった人達全員により平和 が祈念された。


ーハワイ・マウイ島満徳寺創立九〇周年法要参拝団の皆様へー
御礼

 満徳寺90周年記念行事の禅をきく会並びに法要 を11月16、17日に曹洞宗宗務総長・大竹明 彦老師はじめ曹洞宗福島県宗務所、31会並びに SOTO禅インターナショナルの各団体の協力の もと無事円成致しました。

 この度は特にSZIの方々には、マウイ(ハワイ)と日本との架け橋の役をして戴き誠にあ りがとうございました。これからの海外との架け橋役としてSZIの 役割が益々重要に成ると確信して居ります。今後更なるご活躍をお 祈りし、御礼にかえさせて戴きます。
満徳寺開教師・葉貫成悟 九拝


「編集後記」
十月に行われたワークショッブに大先輩の元 ハワイ開教師・田宮繁友老師がご参加くださっ た。その折、田宮師は、孫弟子に当たるアメリ カ在住・オコナー洞燃師の某出版会社に寄稿し た文章を見せて下さった。良寛の遺跡を訪ねた 「五台庵 良寛再訪」という感想文である。

 これは、某社の特集「世界に生きる良寛」として 掲載されました。良寛さんの詩歌は、昔を創造 する想像力を持っていると言って、良寛さんを 本当に愛されていることが窺われる。

 道元禅師七五〇回大遠忌が五年後に迫ってい る。言うまでもないことだが、世界中の多くの 人たちが道元禅師を心から慕えるようになった らこんな良いことはないのだが。(伸)


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